なんでこう背伸びをするかなぁ。

ボクは女性を下の名前で呼ぶことがほとんど無い。
どれほど仲が良かろうとほとんどが苗字に「さん」付けで呼ぶ。

アダ名で呼んだり苗字を呼び捨てにしたりもするが、便宜上の問題でそうしているか、よっぽど心を許しているか、女として見ていないか、まぁ大体はこのうちのどれかだ。どれにしてもこのステージに行くまでには長い長い、苗字に「さん」付けの時期があり、辿り着くまでには非常に時間が掛かる。

これは女性だけでなく関わる人全てに言えることなのだが、やはり女性に対しては一層に顕著となる。
年に数回は会う従姉を周りの従兄弟連中はみな呼び捨てにするようになっていた頃にも、ボクだけはその先の数年間も呼び捨てすることを躊躇い続けて「ちゃん」付けで呼んでいたほどなのだから。
血の繋がりの無い女性ならなおさらその壁は厚く高い。


そんなボクにも初対面のときから下の名前で呼んでいる女がいる。


その日、ボクは大学の友人にもう一人の今年就職で東京に出てきた大学の友人も誘ったから飯を食おう、そんな誘いを受けて男3人なら良いかと思い(土曜ということもあって、どうせ有楽町辺りに流れるんだろうとと踏んでいたし)、Tシャツとスウェットパンツにウインドブレーカー、キャップ、雪駄というまるで近所の「餃子の王将」へ原チャリで行く大学生のような格好で銀座へと向かっていた。

それにしてもやりすぎた。さすがに土曜の銀座にこの格好はねぇわ。銀座に着く前から銀座臭が立ち込める銀座線の車両内でボクは自分の後先考えなさに溜め息を付いていた。自然とうな垂れてしまうが、目に入った雪駄がますますの溜め息を誘う。

別に良い。今日会う2人はむしろボクが雪駄を履いていないほうが驚くような2人だ。そんな2人に会えば気にもならなくなるだろう。そんなことを思いながら出来るだけ足元を見ずに電車を降りた。結果、ピンヒールで薬指を小指の間の水掻きを踏まれた。
実家がちゃんこ屋であろうことが容易に推察されるその女は涙目で睨みつけていたボクに一瞥をくれて、謝るどころか「やだ。ヨガに遅れちゃう」という取って置きのギャグをかましてスタスタとエスカレータへと向かって行った。銀座はボクの想像の斜め上を行く街である。

友人2人と三越前で落ち合うと、2人とも全く変わっていなかったので安心した。どうやら2人は会うのがそれほど久しぶりではないらしい。2人で色々と「こないだのあの店にする?」などと言っている。会話から脱落したボクは2人の会話を聞きながら、その後ろからやたらとこちらに視線を送っている3人組がいるのに気付いた。
明らかに銀座には不似合いな、たとえそこがモスバーガーだとしても依然としてラフ過ぎる出立ちのボクに「テメェはドムドムでコロッケバーガーでも食ってろよ」と言わんばかりの冷めた目だった。

そんな少々奇抜ではあるけどもハッキリと平凡極まりない結末が想像できる出会いにボクは何も始まる気などしていなかった。

(続くかどうかはワシも知らん)